トガシ技研の倒産
鶴岡市のトガシ技研が倒産(民事再生法の適用を申請)しました。
従業員は70名とのことで、庄内地域においては大手企業にあたります。
このような地元大手企業の倒産は、地域経済に対するダメージも大きいといえます。
トガシ技研 産業用機械製造 山形県内で今年最大の倒産 民事再生法の適用を申請(帝国データバンク)
今回の件が特徴的なのは、「粉飾決算」を行っていたということです。
この粉飾決算が、倒産の引き金になってしまった、逆を言えば、粉飾決算をしていなければ再建の道筋があったのではないか、と推測します。
トガシ技研のメインバンクであるきらやか銀行は、過去から継続してトガシ技研をサポートしてきました。
2016年に、1億円出資
じもと創生本業支援ファンドによる株式会社トガシ技研の優先株式引受について
2018年に、6億円の融資
株式会社トガシ技研の半導体製造装置向けロボット工場新設に際し、当行、日本政策投資銀行の共同アレンジによるシンジケートローン組成
その他にも、メインバンクとして事業を支え、2023年2月の倒産時点では、23億余りの債権残高がありました。
当社子会社における債権の取立不能又は取立遅延のおそれに関するお知らせ
きらやか銀行としては、トガシ技研が倒産したらこの23億円が返ってこなくなるわけです。
ですので、一般的には、仮に企業が経営不振に陥っても、資金繰りをサポートして倒産を回避させようとします。
帝国データバンクによれば、現に、トガシ技研に対して元本や利息の返済猶予などを行っていたようです。
にも関わらず、トガシ技研が倒産という結論になってしまったのはなぜか。以下の理由が考えられます。
① 再建の目途が立たないほど、財務状況が悪化している
② (①以外の理由で)銀行内の審査が通らない理由があった
2018年の融資実行時点で、2020年のコロナウイルスの影響を予測することはできませんでしたので、①の理由による影響は大きかったと思います。
しかしながら、②の理由、具体的には粉飾決算の影響が大きかったのではないか、と個人的には考えています。
2021年の売上高51億9000万円から、粉飾決算が明らかになった2022年の売上高は7億6800万円と、実に85%もの売上減少となっています。
影響額のすべてが粉飾決算かはわかりませんが、相当大きな規模の粉飾を行っていたのだろうと推定されます。
粉飾決算
粉飾決算とは、文字通り決算を粉飾する、ということです。
具体的には、会計帳簿などを操作して、売上高や利益を実際よりも大きく見せたりするのが代表的です。
企業は、関係者(株主、銀行、取引先など)から、業績に対するプレッシャーを受けます。
例えば銀行であれば、企業が長期的に成長し、利益を上げ、貸したお金が利子をつけて返ってくると見込めるから、お金を貸すという判断をするわけです。ですので企業としては、計画通り利益が上げていく責任がある、といえます。
とはいえ、未来は不確実ですから、銀行側としても当初の計画通りにいかないことがある(というか、そのほうが多い)ことは百も承知しています。
そういったときに、どう対応するべきか、ということが今回の問題だったと思います。
トガシ技研が行った粉飾決算は、一言でいえば銀行(や関係者)に対して嘘をついていたという、背信行為です。
長期的にメインバンクとしてサポートしてもらってきた相手に対して、恩をあだで返すようなものだったと思います。
なお、それだけ大規模な粉飾であれば、必ず決算書に不自然な点が生まれます。(例えば、売掛金が過大になる)
それを、銀行が粉飾決算を見抜けなかったのか、という点は、別の問題としてあるとは思います。
じもとHD(きらやか銀行親会社)の2022年9月期有価証券報告書においても、
きらやか銀行における特定の大口与信先の業績不振による引当金計上を踏まえ、グループ の信用リスク管理体制をさらに強化してまいります。
という記載があり、粉飾決算の発見や与信管理に課題があったことが読み取れます。
とはいえ、トガシ技研が、銀行や関係者を欺く意図があったことは否定できません。
企業側としては、実態を隠さず、銀行側と協議しながら、経営改善計画を詰めていくという、誠実な姿勢が必要だったと思います。
トガシ技研が倒産という形になったのは、このように、銀行の信頼を失ったことが大きいのではないかと考えます。
きらやか銀行としても、「裏切られた」会社に対して、これ以上、支援を続けられないと判断したのではないかと思います。
銀行とどう付き合うべきか
銀行に対して、なんとなく怖いとか、正直に状況を話してよいのだろうか、といった気持ちを持つ経営者の方もいるかと思います。
ですが、金融機関の立場に立ってみれば、一度お金を貸した以上倒産されては困るわけですから、一蓮托生の関係です。
また、事実を隠す、粉飾決算などは、それが明らかになったときに受けるダメージが大きく、リスクが大きすぎると思います。
特にメインバンクとは、パートナーとしての関係を構築していくことが望ましいといえます。